週刊もちもち動物園

ブラック企業に就職したり訴えたり。ハードな体験談を連載ストーリーにしています

転職先はブラック企業第23話「脱出」

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前回の話はこちら 

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ブラック企業から抜けだせ!

次長との面談は東京と九州をあわせて3回に渡って実施された。

 

その間、次長は終始僕を褒め続けた。

 

うちの会社は結構トップダウンだから、最初から人事というのは難しいかも知れない。でも、必ずしょうきちさんと人事をやりたいと思ってる。だから、心配しなくても良い。必ず引っこ抜くから。

 

こうしたありがたい言葉を聞く度に、僕はうっとりした。

 

事あるごとに次長は僕のことを「一緒に会社を改革する同士」と言ってくれた。実は、次長は僕よりも20歳も年上である。経験からして、どう考えても同士というのは釣り合わない。

 

しかし、それでもなぜか、次長はひたすらに僕を同士として扱ってくれた。

 

夢を壊すような話かもしれないけど、正直うちの会社はそこまで華やかじゃないんだ。保守的な人も多くて、宮崎の気質に似てのんびりとしているところも正直ある。だから、私は入社して以来ずっと我慢してきた。自分を隠してね。

 

自分を隠して、ですか…… 

 

次長の言葉の裏には、消化不良のため息を感じることができた。おそらく、納得がいかないことも多かったのだろう。

 

でも、私もずっと我慢を続けるつもりはない。しょうきちさんのような仲間を増やしていって、健全な新陳代謝を促したいんだ。うちの会社が更に大きくなっていくためには、それしかない。

 

会社は一枚岩ではない。

 

今までのベンチャーでの業務はわかりやすかった。頑張らない奴はカス、結果を出せないやつはゴミ。利益に対してフルコミットすることこそが唯一の指針だった。そこには揺るぎない、ベンチャーだからこそあるシンプルな目的があった。そういう点で、あのブラック企業はわかりやすかったのだ。

 

しかし、次長の言葉は、会社がそんなに簡単ではないことを教えてくれる。組織は人が増えれば増えるほど、年月を重ねれば重ねるほど、ところどころがサビて融通が効かなくなってくるらしい。

 

頑張りたくない人間も、仕事が好きじゃない人間も色々入ってきてしまって、「せっかく仕事なんだから、頑張るべき」というシンプルな理論で動かないのだ。なぜなら、動かなくても給料は入ってくるのだから。

 

だから頼むよ、しょうきちさん。あなたみたいな、若くて色々新しいことをやりたいっていう人を求めているんだ。

 

次長はいつもそう言った。そして、僕も、力強く「はい」と答えた。

 

適性検査、そして面接へ

次長の温度感も高まり、もはや「入社前提」で話が進むようになったころ、適性検査の話があった。僕は品川まで呼び出され、会議室で適性検査を受けることになった。

 

渡されたのはクレペリン検査。ひたすら計算問題を解いていくという、小学校の時にやらされるようなアレ。それから、昭和の印刷会社が刷ったまま何十年も改定されてこなかったような古臭いマークシート。

 

ああ、こういうところが古いんだなあ、と思った。

 

次長は「こんなもの、本当はどうでもいいんだけど、上がうるさくてね」という。僕も笑って答え、ペンを持った。

 

ところで、僕は不毛な行為には激しい憎悪を感じる質で、こうした無意味な適性検査も例外ではない。だから、時間の限り計算問題を解き続けるような心理的負荷の大きい(そして、入社の関門としての機能を果たさない)検査など、ヘドが出るようなものだと感じていた。

 

僕の姿勢は5分刻みで大きく傾き、ため息が漏れた。

 

全ての検査が終わり、次長と歓談する。隣では、女性の管理職がマークシートのスコア計算のようなものをやっていた。

 

僕はこの不毛な検査から開放され、次はいつ本社に行きましょうか、等と次長と話していた。

 

そのとき管理職の女性が次長にスコアを渡してきた。

 

しょうきちさん。

 

次長の表情が少し曇る。

 

このスコアじゃ、うちの採用基準にあっていない。どうしようか……

 

なんということだ。あの計算問題で落とされることになるのか。僕の目の前は真っ黒になった。

 

次長は僕にスコア表を見せてきた。スコアにはところどころ赤丸がついている。

 

見ると、8+6が13になっていたり、9+7が15になっていたりする。延々と解き続けることで集中力が欠如し、イージーミスを連発していたのだ。こんなことで落ちることなんてない、そう信じ切っていたからこそ生まれた失態だった。

 

自業自得だ。

 

でも次長。こんなことで不合格になんてならないですよね。たかが適性検査ですよね……

 

そう言おうと顔をあげた時の次長の顔は、想像以上に険しかった。

 

僕の転職活動は、性格診断という思いがけない伏兵によって窮地に立たされていた。

 

性格診断などで、ここまであたためた案件を棒に振るのか。納得できない。しかし、どうしようもない。

 

僕の計算ミスは、不毛な診断に向けられたフラストレーションに比例しておびただしい数になっていた。人事の決定権を持つ取締役には、弁解してもどうにもならない数字らしかった。

 

次長は黙って考え込み、ううん、とかう~ん、とか、ひたすらに唸っていた。女性の管理職もそれにならって口をつぐんだ。僕も何か言おうとしたが、言葉が出なかった。自分のシンプルなミスで二人の気分を害していることを悔いた。

 

どうにもならない事実と、どうにかしなければならないという焦り。それらが部屋の酸素濃度を奪い、僕らの冷静さと思考能力を削っている。

 

なんとかしましょう、仕方がない。

 

次長は吐き出すように言った。僕ははっと彼の顔を見た。試験用紙をカバンから取り出すと、僕に差し出してくる。

 

これって、今ちょうど解いたものと同じ……

 

そう。そのとおり。これを家でもう一度解いて、ウチの会社に送ってほしい。

 

なんということだ。点数の詐称をやるということらしい。

 

うちの取締役は鋭いからね。だから、私達がマルを付けなおしたりすると、その筆跡などから「察して」しまうかもしれないんだよ。だから、うまいことやろう。君を入れない手はないんだから。

 

こうして、僕は自宅に帰ってから「全て答えを知っている計算問題」と「全てアタリの回答を知っている性格診断」を、98点くらいの点数が出るように最新の注意を払って解き直した。

 

これはこれで非常に不毛な作業であった。が、不毛な作業を強いる企業を変革するには不毛な作業が必要であるという、なんとも皮肉のこもった事実を知り、納得もできた。

 

後日、郵送で試験を送付後、間もなく「合格」の連絡が来た(当然)。

 

ついに僕は最終面接ということで、宮崎の地に向かうこととなった。

 

最終面接は宮崎の本社にて行われるという。

 

僕は旅行でも行く気分で、意気揚々と飛行機に乗り込んだ。

 

初めて訪れる宮崎の地はメタクソに暑かったが、暴力的に旨く殺戮的に安いうどんに感動したし、電車も乗り心地は良かった(乗車率50%を下回りそうな勢い)し、かなり快適だった。

 

次長はわざわざ僕に電話をしてくれ、街で一番だという飲み屋に連れて行ってくれた。

 

真っ黒に焼いた地鶏(旨い)、実は有名な宮崎カツオのたたき(旨い)、焼酎(旨い)、〆の親子丼(旨い)。ビール、ビール、ビールがすすむ。調子に乗ってキンキンのエクストラコールドを頼み、アツアツの焼き鳥と一緒にゴクゴクとやる。もちろん旨い。

 

親子丼で〆たけどもまだまだ食い足らず、初めて見る「辛麺」の店に興味津々でなだれ込む。塩ラーメンのようなあっさりベースのスープ(料理酒がきいている)とありったけの唐辛子をミックスしたようなもの。見た目はラーメンだが、宮崎では絶大な市民権を得て別ジャンルとして認識されているらしい。

 

これもまた旨く、暑い中ハフハフ食べる激辛カレーのような、強烈なカタルシスを感じた。辛麺の具はニラ、卵、ミンチ鶏肉。この素晴らしい3連コンボが響き、これでもかと唐辛子をまぶしたスープを飲めば、これはもうやめられない。中毒症状が出てしまう。なぜこれが東京でウケていないのか、極めて不思議である。

 

次長は僕の食欲に苦笑しながら、面接について教えてくれた。どうやら、最終面接は「3本勝ち抜き勝負」であり、事業部長、取締役、社長と面接を続けてやるらしい。なかなかすごいことだ。

 

事業部長は正直、そこまでキレる人間じゃない。でも、気をつけるべきは取締役。この人は社長の兄弟なんだ。この前もいったけど、物凄く人を見抜く力がある。私以上だ。だから、気をつけていこう。

 

僕は辛麺をすすりながら、ウムウムと頷いた。

 

そこから会社のお金でとってもらったホテルで夜を明かし、翌日13時からの面接にそなえた。いざ、決戦!

 

僕は面接にそなえ、ホテルの中で資料をつくっていた。

 

職務経歴書や履歴書の他に自分が入社したらどんなことができるか。これをパワーポイントでまとめておいたのだ。そして、次長からのヒアリングをもとに、具体的な改善案を記載した。

 

結局のところ、面接では「入社後のギャップなく活躍できる」ことをイメージさせれば勝ちだ。なので、

 

採用の歩留まり改善(エントリー→内定までの母数をどう増やしていくか)は、WEBマーケティングの知識をつかうとこんな風に解決できます 。

 

と、現在会社がかかえている課題をできるだけ具体的に提示し、自分の知識でどこまで改善できるかをまとめた。

 

面接は営業だと思っている。だから、自分というツールを使って会社にどんなソリューションを提供できるかをきちんと提示したい。僕はこんなことができます、それによってこんな効果が出ます。利益がいくら出るので、僕を雇ってもペイできます。

 

面接の流れをイメージする。言える。大丈夫。

 

最終面接

 

オフィスに通されてから間もなく面接が始まった。まず、第一関門。いきなり難関と聞かされてきた、取締役の面接だ。

 

なんでわざわざこんなとこまで来たんか?

 

宮崎弁で少し威圧感を感じるが、内容はシンプルだった。僕の育ちについてと、なぜ入社したいか。あとは取締役の昔話に笑顔でうなずくだけ。

 

(若干強調された)僕の素直さに安心したのか、取締役は20分足らずでOKを出した。案外あっけない難関であった。

 

次に事業部長。経理も担当する、大手金融出身者。社内で切れ者とされる人物……らしい。が、前日に作成した資料を見せると、「すごいねえ」と一言だけ言って終了。一応志望動機も聞かれたけど、「いいねえ」しか言わなかった。10分足らずで終了。

 

最後に社長。何を聞かれるかとおもったが、「ウチに入りたいとけ?(入りたいんだよね?)」と言われ、ハイと答えると終了。社長は満面の笑みで会社の自慢をし、意気揚々とデスクにかえって行った。

 

最後にもう一度取締役が現れ、「人事担当」の文字が入った採用通知をくれた。学生時代から憧れていた人事に、ようやくなることができたのだ。

 

こうして僕は内定した。

 

これで上場企業の正社員。年収も前職よりアップ。やりたかった人事。次長が言うには有給取得率は70%を超えるらしい。スーパーホワイト企業に就職だ。

 

もうブラック企業とはおさらばである。

 

おめでとう。君の実力なら、すぐに役員になれるよ。まずは1年後に係長になろう。私がすぐに引き上げるから。年収もちょっと経てば600万を超えるからね。

 

面接の後の飲み会で、次長はそういった。

 

ありがとうございます、お役に立てるように精一杯頑張ります。

 

僕は次長と握手した。この夜のビールはことさらにうまかった。

 

「転職先はブラック企業」完結

以上、「転職先はブラック企業」完結しました!

 

会社の在籍期間(1年2ヶ月)よりも執筆期間(約3年)の方が長くなってしまいましたが、なんとか完結させることができました、、、笑

 

第一話が2015年の6月なので、だいぶ昔のように感じます。

 

23話分のストーリーになったので、1記事7000文字だとすると14万文字超。文庫本1冊分が13~14万と聞いたことがあるので、相当膨大なボリュームになりました……

 

もしよければ、再度読み直して見て頂けると嬉しいです。 

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その後(「地方移住したらブラック企業」に続く)

こうして僕は入社してから1年で係長になり、採用数を前年度200%超えを連発。今は最年少部長就任を目指して頑張っている……

 

と、なるはず、でした。

 

しかし、世の中とは甘くないものです。モノは言いようとはよく言ったもので、前職を凌ぐ波乱の毎日が待ち構えていました。

 

次章、九州・宮崎でのブラック企業奮闘記、「地方移住したらブラック企業」に続きます!今後もどうぞよろしくお願いいたします!