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転職先はブラック企業第21話「仮病じゃないです、うつ病です」

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僕は自分が壊れているのか、壊れていないのかわからないまま仕事を続けた。

 

社内ではMVPを決めるコンテスト的なものが2ヶ月ごとに行われることになり、選ばれたものは毎回涙を流して喜んでいたが、その選定基準が「ガス抜き」であることは明らかだった。辞めそうな人間や、叩かれた人間を慰めるための表彰。毎回いろんな叱咤激励が飛び、記念撮影があった。が、僕はひたすらに出されたケータリングのうまいメシを食べることに精神を集中させていた。

 

そんな中、来年度に入ってくる新卒たちの「仲間入り儀式」なるものが行われた。新卒全員で懇親会をやるといって会社に集まらせてからそのまま拉致して群馬の水上に連れていき、気合のバンジージャンプをさせるというのだ。当然僕らも強制的についていくことになった。

 

新卒は一旦社内に集合させられ、お菓子を食べながら15分ほど団欒。しかし、突然社員に外に出るように指示される。事情を知らされていない新卒は、キョロキョロしながら社員の中に紛れてついてくる。ビルを出るとそこにはバスが停まっていて、そのまま拉致。有無をいわさずバスの中に押し込まれる。

 

新卒たちに強烈な恐怖を感じさせ、それを仲間で乗り越えさせることによる一致団結を目指す。出発前に社長が語っていたのはそんな能書きである。僕はどうでもいいと思いながら、苦笑いと小さな拍手で応えた。

 

行きのバスの中では当然、乗り物酔いを覚悟しながら全員が仕事モードである。休む暇はない。各自乗り物酔いを飲みながらできるだけ長時間パソコンを叩ける用に神経を集中させる。しかし、大抵の人間は30分も持たず、朝5時まで飲んで駅前に寝転がっている大学生のように死んでいた。もちろんそんなときにも取引先からの電話は入るので、2分だけ死力を振り絞り、営業トークをかますのだ。

 

こんな車内で、新卒は何を思うのだろう、と思った。彼らは社長を囲うように座らされ、社長のリズムに合わせて笑っている。

 

鳴り響く携帯。群馬までの道のりが辛い。携帯はなぜこんなに山奥でも通じるようになってしまったのだろう。文明の利器の進化は僕らを死ぬまで働かせるように向かっているような気がする。

 

水上に到着すると、凍える風が吹きまくっている。僕らはありとあらゆる意欲を喪失した。何でこんな季節に水上なんて来るんだ。脳みそプッチンプリン野郎め。

 

何をするか内緒にされていた新卒は、寒さにドン引きし(当然防寒着は持ってきていない)、巨大な橋の景観と係員の持ってきたバンジーの装備に絶句していた。

 

言い忘れていたが、新卒たちは揃いも揃って優秀である。学歴はもとより、エロ画像を収集してくる謎のプログラムを組んだりする変態の東工大生や、外資系コンサルを辞退して入ってくるSFC生など、やばい人間がごろごろいる。しかし、社長の営業トークによってこの会社に入社することになってしまった彼らがまずやることは、めちゃイケもびっくりの極寒水上バンジージャンプなのだ。僕は彼らを育てた両親が何を思うかを想像した。

 

新卒の前途有望な若者たちは奈落の底に向かって(物理的且つ社会的に)真っ逆さまに落ちていった。この世の終わりに直面したような声、もしくは首を締められたカラスのような声をあげながら。それを上から見下ろしながら、社長は爆笑していた。僕らも合わせて笑顔をつくった。

 

「腹がよじれそうだわ、マジで。クソ笑った」

 

社長はヒーヒー言いながら、タバコの煙をふうっと吐いた。

 

「おい、マゾ彦、お前も飛べよ」

 

突然社長がマゾ彦を指名した。

 

「金払ってやるから。突っ立っていてもつまんねえだろ」

 

自衛隊出身のマゾ彦は、上官命令を拒否する術を知らない。彼は何も抵抗せずに装備をつけられ、「突撃します!」の声とともに華麗に飛び降り、凄まじい速度でミサイルのように落下していった。その潔い姿に気分を良くし、社長はまた笑った。戻ってきた新卒たちも、合わせて笑っていた。

 

帰りのバスでは男性社員全員がストッキングを被る変顔大会や、うまい棒早食い大会などが行われていた。僕らの会社は総会をやるホテルなどでも散々会場を荒らして帰るので基本的に一発で出禁になるのだが、今回も社長がどこからか持ってきたローションを社員にかけ始めるという暴挙に出たことで、そのバスの出禁が命じられた。

 

新宿のビル前でバスを降りると、ローションまみれの僕らを見て、通りのビジネスマンたちは怪訝な顔をした。

 

自由意志

ベンチャー企業の中では、僕らは運命共同体だ。激務の日々を戦い抜きながら、毎日を家族のように顔を突き合わせながら生きる。一緒にいることが前提だから同じものを見て同じように笑うのが望ましい。

 

そこに自由意志はなかった。会社を成長させるという大義名分のもとに、僕らは身体的自由と精神的自由を搾取させられていた。意識した途端に息苦しくなる。入社してから1年近く目を背けてきた事実に、僕は直面した。

 

会社のために成長しようとか、会社のために利益をだそうと言う言葉が途端にうそ寒く感じる。

 

その夜、僕は歌舞伎町のメンズサウナにいた。汗を流して錆を落としてい気分だったのだ。ふと見ると、メールボックスにWeb関連の記事が届いていた。送信者は社長。全社員が一斉に賞賛のメールを送っている。当社の利益向上のためにはウンヌン、これからのWeb業界はカンヌン。僕は嫌になってPCを閉じた。

 

僕はメンズサウナのWi-Fiを借りて、転職会議のサイトを開いてみた。会社の転職情報と、在籍者の口コミがのせられている。世間で「社員を大切にしている」と言われる企業も、ここを除けば反吐の出るような勤務実態が顕になる。もちろん、うらみをもってやめた人が過剰な批判を展開しているところもあるけれども。

 

自分の会社を検索してみた。すると、

 

  • 社員が事業部まるごと夜逃げしたこともありました
  • 頑張って自社サービスを開発しようともしたけど、失敗
  • いろんな事業に次々と手を出して、節操がない
  • 社員が死にそう

 

と、あった。呪いの言葉だ。どれもこれも真実だし、誇張しているところは見られなかった。文章の長さは呪いの強さといえるだろう。今まで苦しみながら辞めていった社員たちの、断末魔を聞いているようだった。

 

僕は思わず、キーボードに指を走らせていた。自分の意思がどうこう言う前に、勝手に指が走る。知らず知らずのうちに、自分の会社のレビューページは僕の文字でいっぱいになった。息を止めてキーボードを打ちまくっていることに途中で気づき、あわてて息をする。

 

自分の会社を悪く言うことは、ものすごく悪い気がした。しかし、書かずにはいられなかった。どうしても、今の自分のことを知らせたかった。社員旅行で見るうそ寒い笑い、社長への賛美と、日々、社員の味わう奴隷のような冷たさ。

 

ブラック企業で働いている人間は、ずっと、自分が被害者であることを認識していないのかもしれない。虐げられることに慣れすぎて、声をあげる術を知らないのだ。

 

しかし、だからこそ、僕は書くべきなのだと思った。遠くから石を投げるかたちでも構わない、小さくても抵抗したいと思った。自分はもうこの会社で、長くは持たない気がする。だから、せめて、引っかき傷の一つでもつけてやりたかった。

 

僕は沸騰した頭で、大量の批判分を書き上げた。そして、思考のとまった右手で重力のまかせるままにエンターキーを押した。僕はそのまま倒れるように眠った。

 

5月の日曜日、僕は勉強会を休んでレンタルビデオ店でビデオを借り、それをひたすらに眺めていた。ベッドからほとんど過ごさずに、ただディスプレイの上をなぞる。夕飯を食べに行こうと思って駅に向かって歩きだすと、板橋の街が夕日に照らされて輝いていた。

 

久々にゆっくりと街を歩いた。クロックスで歩くのは革靴で歩くよりもずっと心地よかった。松屋に入ると、僕は牛めしをいつもの2倍の時間をかけて食べ、味噌汁をゆっくりとすすり、出された水を全部飲み干してから、ごちそうさまと言って出た。

 

散歩はたらめに楽しかった。用もないのにマルエツに行って果物をながめたり、惣菜コーナーでうまそうなブリの照焼を手にとったりする。実は、街にはいろんな刺激があったということを思い出した。

 

仮病

ある月曜日、僕はついに仮病を使った。もう、会社に行くためにドアを開けることができなかったのだ。冷や汗をかきながら出したメールでの連絡には、意外にもあっさりとOKが出たことに驚いた。

 

開放された気がした。朝10時に部屋にいることが、とても不思議な感じがした。僕は心地よい罪悪感の中、二度寝をした。昼の1時になってからのそのそと起き、冷蔵庫から牛乳を出して飲む。胃が食べ物が入ってきたことを察知して、急に何か食べたくなった。

 

クロックスをつっかけて家を出る。昼間の板橋はとても静かだった。当然ながら、社長も頭脳警察もいない。新宿のオフィスと8キロくらいしか離れていないというのに、天と地の差だ。すごいことだ。何もしていないのに、社長から怒られないなんて。

 

僕は1駅分歩いて板橋区役所前のココイチでカレーを食べた。

 

その途中、何人かのビジネスマンとすれ違った。すれ違うたびに、彼らと目があう度に暗い気持ちが戻ってきた。月曜なのに私服で歩いているところを彼らに見られることが辛かった。

 

彼らとは別の時間軸で動いていることが恐怖だった。なぜ休んでいるのか。自分が弱いだけじゃないのか。怠けているだけではないのか。僕は名前の知らない大勢の誰かに責められている気がして、早足で家に戻った。

 

自分の休んでいることに理由がほしかったのだ。

 

僕は思わずキーボードを叩いた。検索ワードは「新宿 精神科」。

 

新宿を中野方面に歩いてたどり着いたのは、ドラッグストアや小型スーパーなどが入った三階建の複合施設だった。新宿ハートクリニック。僕が探した心療内科はこの中にあった。

 

僕は誰にも見られないようにパーカーを着て、いつもはかけない伊達メガネをして中に入った。

 

白い清潔なエントランスに、アロマオイルのような香りが漂っている。受付は広く、看護師さんが笑顔で出迎えてくれる。

 

訪問者の心を癒やす様々な工夫が、僕には圧迫してくる悪意のように感じられた。待合室には何人かの患者がうつむきながら何かをしている。なるべく彼らを見ないように、僕は受付を済ませた。

 

僕は、自分が会社をやめる理由として精神疾患を求めていた。ハードワークにやられて心を病んだ。それなら辞めても仕方ない。いきさつを話すとき、そう思ってほしい。

 

しかし、診察を前にして、本当に自分が精神疾患を患っていたらどうしよう、という恐怖が襲ってきた。病名をラベルとして貼り付けられたとき、僕には会社に負けたという烙印がおされる。他のみんなは耐えられるから一流で、耐えられなかった僕は二流以下なのだ。

 

そのとき、僕は会社から逃げるために精神疾患の名前を求めていながら、自分を精神疾患患者と認めたくないという、極めて都合の良い矛盾した思考に板挟みになっていたことに気づいた。

 

そして、会社を逃げるために病気を使いたいという卑怯な自分に恐怖し、さらに医師が病名を僕に宣告する瞬間を想像して恐怖した。

 

診察前のアンケートに手汗が滲んでいる。僕は自分の行動が信じられなくなった。意図せずに、卑屈で自己中心的な選択を取ってしまった自分がただひたすらに嫌だった。

「しょうきちさん、どうぞ!」

 

かんたんなアンケートを書き終わったところで名前が呼ばれる。怖い。しかし、もう戻れない。

 

最初に通された部屋には、漫画で出てくるマザーコンピューターみたいな巨大な機械が据え付けてあった。

 

そこには頭につけるヘッドセットみたいなものがつながれており、僕はそれをかぶるように指示された。脳の血流を読み取るようになっているらしい。

 

医師が合図をすると、簡単な質問が出された。僕はただ座ってそれに答えるだけでいいという。幼稚園児の知育テストを受けているようだった。

 

テストは20分程で終了し、それから問診を受けて終了。

 

結果は、軽度のうつ状態だった。僕の前頭葉の血流は、健常者の回答に比較して反応が鈍く、それがうつ状態のあらわれということだった。

 

どうすればいいんですか、と聞いた。すると、医師はとんでもないことを言う。

 

「電気ショック療法が一回三十万円ですね。それを八回は繰り返してもらうことになります。薬物療法ならもう少し安いですが、依存性のリスクがありますね」

 

どちらの選択肢も、到底のめない話だった。すこし考えたいというと、わかったと言いながら、ここで治療しておかないと長引くといい、放置のリスクをとうとうとうったえてきた。

 

それでも僕が考えたいというと、本を二冊手渡して、うちが出している本だから読んでくれという。見ると、病院の医療技術をめちゃくちゃにアピールするような内容だった。

 

わかった。これは、営業だ。単価三百万円の、医療サービスを売るか断られるかの商談なのだ。

 

僕は、そう感じて二万円の会計をしてから病院を出た。ちなみに、僕がその病院を訪れることは二度となかった。

 

信じられないほどの高額な治療費を出され、僕は嫌気がさして病院を飛び出した。良かったのは、診断書をもらっていたことだった。

 

休もう。休職だ。とりあえず、休職をしよう。僕は診断書という武器を手に入れ、会社にメールを入れた。

 

「診察の結果、うつ状態と診断されました。医師にも会社を休むことをすすめられたので、1ヶ月ほどお休みさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか」

 

医師から言われたことをまとめ、自分のプロジェクトに関係する10人ほどをCCに入れ、宛先を社長と副社長の青井にして送信した。

 

青井からは5分ほどで返事が来た。

 

「了解。復帰できそうだったら連絡頂戴。それまでゆっくり休んだほうがいいね」

 

青井らしい、さっぱりした対応だった。また、社長から僕にメッセージが来ることはなかった。

 

僕は開放感と申し訳無さに包まれていた。

 

1ヶ月の休職、つまり休み。とりあえず休みたい。休もう。そうした気分と、ほとんど返事をくれないプロジェクトのみんな。きっと、僕がこなすはずだった仕事が一気にまわってきて、僕のことを恨んでいるのだろうと思った。

 

同僚のため息が聞こえるようだった。僕は怯えた。街で営業をしている会社の社員に会うのが嫌で、近場のツタヤと松屋を往復しながら過ごした。

 

昼間にTシャツ姿で歩くのは最初は気分が良かったが、3日もすると、これでいいのだろうかという罪悪感が生まれてくる。今、僕は本当に働けない状態なのだろうか。もしそうでないとするならば、僕はサボりだ。ただの。

 

そう思って、とりあえず転職サイトを開いてみるも、まったくもって集中できない。僕の疲れた脳は、眼の前のテキストを言語として認識していない。僕はサイトを見ていた流れでネットサーフィンを始め、YouTubeを見始めて、そして夜になった。4時に寝て、12時半に起きる。松屋に行き、牛めしを食い、また昼寝をして、起きたらなんとなくYouTubeを開き、ゲームの実況動画を見て、夜になる。眠れない夜。うだうだしながら夜明けまで過ごし、太陽がのぼり始める頃に眠る。

 

毎日働いていたら、時間の使い方を忘れてしまったようだった。旅行に行く気にもなれず、ひたすらにお金の掛からない毎日で日々を浪費するしかなかった。

 

そんなとき連絡をくれたのは、前職で良くしてくれていた、エンジニアのKさんだった。

 

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