週刊もちもち動物園

ブラック企業に就職したり訴えたり。ハードな体験談を連載ストーリーにしています

転職先はブラック企業第14話「会社ぐるみのパワハラ」

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パワハラが自然体!会社に染み込むブラック体質

太陽光がビルで乱反射し、アブラゼミが狂ったように鳴く新宿の街中を、僕は無我夢中で駆け抜けていた。アポの時間に間に合う最後の電車まで、あと3分。歩いて5分かかる道だから、走ればきっと大丈夫だ。大丈夫、大丈夫。

 

「はっ、はっ、はっ」

 

あまりにも本気で走っていると、涙が出てくるものだ。アドレナリンが吹き出して、脳がハイになる。地下鉄の入り口をミサイルのように見定めて、横に並んで歩くOLを突き飛ばす寸前で回避。バトンパスのようにスイカをタッチして、あとは20段ばかりの階段を駆け下りて電車に飛び込むだけだ。

 

間に合うか間に合わないかのギリギリの隙間に自分をねじ込み、ゲームセット。終了直前のスリリングなゴールで僕はこのチキンレースに勝つつもりだった。しかし。

 

「発射しまーす。駆け込み乗車はおやめくださーい」

 

階段を駆け下りる寸前に、無慈悲な車掌の一声。

 

待ってくれ。あと3秒でいい。3秒待ったところでお前の給料は何も変わらないだろ。今のトレンドは顧客第一主義だぜ。ワタミもグロービスもマッキンゼーも、どこだってそう言ってるじゃないか。

 

しかし、僕の魂の叫びも届かず、わずか数秒の差で地下鉄は発車した。僕の荒い呼吸の背後に汽笛が響く。うるせえ。プァーンじゃねえよ、くそが。

 

「はあ、はあ……くそ、くそっ、くそ……!」

 

腕時計。なんど見ても、これがアポの前の最終電車。タクシーを使ったとしても、余計間に合わない。最短ルートを取り逃し、アポの遅刻が決定した、哀れなブラック企業社員。

 

「マジかよ。ほんと……最悪」

 

僕は2分で息を整えてから、訪問先に10分遅れる旨の電話を入れた。

 

会社ぐるみのパワハラ1:慣れない営業訪問で遅刻!

「遅れてしまい、大変申し訳ございません!」

 

通された会議室で、僕の声だけが響いた。訪問先の社員は4人いるが、全員無言。座ったまま、むすっとした表情で僕をみている。

 

「も、申し訳ございませんでした!」

 

再度謝る僕。哀れだ。キンキンに冷えたエアコンの冷気が僕に当たっている。僕は軽く身震いをした。

 

「まあ、とりあえず、おかけください」

 

 小さくなる僕と、テーブルを挟んで4人。険しい表情で見つめられる。

 

「初めての顔合わせで遅刻とはやってくれるね」

 

「しかも、資料を紙でプリントアウトしてこなかったそうじゃないか。直前にもらったデータをこちらで印刷したから、何も持たずにそちらの話を聞くということはなかったがね」

 

申し訳ございません、と小さくつぶやいた。耐えろ、自分。

 

早朝のことだ。すべては小さな異変から始まった。なぜか、プリンタが作動しなかったのだ。2つの営業チームに、僕達のようなフォローアップチームと、アポが入っているチームは5つ。その全てが印刷を待つが、プリンタからは一切何も出てこない。

 

「なんで動かないのよ!誰かクソ重いデータでも送信したんじゃないの?」

 

悶々とする時間。アポの時間まで2時間あったが、それが1時間半となり、ついに1時間を切る。30分前に出ればぎりぎり間に合うというタイムリミットが、どんどん迫ってくる。

 

「無理だ!データで送る!」

 

営業チームがメールでデータを送付し始めたのを皮切りに、すべてのチームがデータ送信をし始めた。続いて電話をかける。申し訳ございません、恐れ入りますが、訪問中は資料をパソコンでご覧いただくか、御社の方でプリントアウトをしていただくことは可能でしょうか。ええ、申し訳ございません……。

 

僕も時間ギリギリまで粘ったが、やはり資料は出ず。取り急ぎのデータ送信で場をしのごうとした。その結果がこの有様だ。そして、おそらく今の僕と全く同じ状況を、何人もの社員が経験している。

 

会社ぐるみのパワハラ1:営業に出ている理由は……

今回のアポは、僕らフォローアップチームに課せられた「営業戦略アポ」だ。3年後に見越した上場ため、売上をきれいな尻上がり的に伸ばさねばならない。

 

営業チームだけでは成果が上がらないと判断した経営陣は、フォローアップチームの業務をさらに効率化することで時間を捻出し、その余った時間で営業に向かわせる方針をかためた。

 

「遅刻の件、ならびに資料については申し訳ございません、しかし、ご提案についてはきっと、価値のある情報提供になると自負しております」

 

提案内容は、CMSツールの販売と運用のコンサルティングだった。言うなれば、ブログを作ってお客さんを囲い込みましょう。どんなブログを作ればいいか、作ったあとでどうすればお客さんが増えるか、全部任せてください。費用は月額50万です。こんな感じ。コンサルティングって便利な言葉だと思う。とりあえずそれをつけておけば、商品っぽくなるのだから。

 

「他社とはどう違うのかね?」

 

「当社は長年続けてきたWebマーケティングのノウハウがございます。それは他社のようにSEOに偏重するわけでもなく、リスティングだけやってきたというわけでもない。もちろん、サイト運用だけのプロフェッショナルで完結してもいないのです。包括的にマーケティングに携わることができるのがうちの強みです」

 

例えるなら、本をたくさん書いて売るとなったとき、小説だけ書ける作家だけじゃダメ。エッセイだけ書けてもダメ。いろんな記事が書ける「執筆力」と、それらを組み合わせる「編集力」がないと、いい本作れませんよね、という話。(で、それが全部うちにあるという、おこがましいトーク)

 

「あー、よくわからん。安井くん、わかるかね」

 

重役らしい小太りの男が、眼鏡の若手を呼んだ。

 

「ちなみに成果はどのくらい出るのでしょう?」

 

眼鏡の安井が言う。

 

「単刀直入に申し上げて、それは現段階ではわかりません。ブログは漁船で言う、魚を海底でとらえる地引網のようなものです。お金と時間を投資すればするだけ、網は大きくなる。つまり、Webでお客さんを多く囲い込めるのです」

 

重役は往々にして、Webに詳しくない。だから、こうしたセールストークはなるべくゆっくりやるのがいいはずだ。僕は軽く息を吸い込んで、話を続ける。

 

「ただし、そもそも魚の数がいなければ、網をしかけても無駄です。そこはきちんと調査しなければならない。だから……」

 

自分で何を言っているかもよくわからない、が……クロージングをやってみる。

 

「まずは最初の1ヶ月、お試しキャンペーン。無料で調査をさせていただきます。どのくらいの規模のブログを作れば、どれくらい儲かるか。そして、そもそもWebを使っているターゲットはどのくらいいるか。きっと、御社のWebマーケティングに広く役に立つデータも提供できると思います」

 

顔をあげた。訪問先の4人は皆、資料を見ながら無表情で黙っている。

 

「はっきりいうが、よくわからん。第一、ブログってあれだろ、女子高生が日記とかつけるものだろ。あんなキャピキャピしたものにうちの情報を載せるのか」

 

「いえ、違います。それについては資料の5ページに、イメージを……」

 

「いや、そもそもブログってなんだ。企業ブログとかなんとか最近やっているところもあるらしいが、自社の自慢をばーって書いて何が面白い。あんなもん、ママゴトに過ぎん」

 

「単純に現在あるホームページをリスティング広告でグーグルの検索結果に出るようにすれば手っ取り早いんじゃないですか?」

 

重役に加え、眼鏡の安井も乗ってきた。

 

「ブログというと、言葉ではチープなイメージもあるのも頷けますし、安井様のおっしゃるように、リスティングを使うのも一手かもしれません。それらはすべて、こちらでお調べしますので、見た目も現状のホームページと遜色ない、費用対効果の高い施策も必ずお出しします」

 

4人の表情は、はっきり言って腐っていた。早く終わってほしそうに、PCを叩いている。きっと、他の業務のレポートでも書いているのだろう。この相手には、何を言っても響かないように思えた。

 

「何かあったら連絡しますよ」

 

重役が短く切り出した。意訳すると、「どうぞお帰りください」だ。むべなるかな。

 

「ぜひともよろしくお願いします。本日は貴重なお時間をいただきありがとうございました。今後共ご贔屓に」

 

営業スマイル。肺の中まで冷え切った体をぎこちなく持ち上げ、一礼してから立ち去る。見送りも当然なし。まあ、遅刻もしたことだし。むべなるかな。

 

会社ぐるみのパワハラ3:社長からのお叱り(日課)

上司に電話をかける。訪問の結果報告を手短に済ませ、帰社予定時刻を告げる。

 

「ちなみに、あとで社長から連絡があるらしいよ」

 

嗚呼、悪いことって重なるものだ。

 

上場を見据えた営業力強化。それに伴う営業担当外にふりかかる営業業務。僕のような、サイト制作のディレクションをやっているような人間にも、その役は容赦なくやってくる。

 

営業担当じゃない、そんなこと関係ない。社員の都合なんて考えちゃくれないのだ。

 

その結果、ついに、月に500時間の勤務時間を超える社員も現れた。

 

過労死ライン、そんなもの知るかと言わんばかりの話。成長戦略を盾にした無茶な欲求が僕らに押し付けられるたび、僕らは命を粉にして、勤務時間の数値に変えていく。

 

そもそも、過労死ラインなんて言葉を社内では聞いたことが無い。僕らの残業はすべて自己責任。パフォーマンスの出せない社員は、何時間働いても自業自得なのだ。

  

さて、出先で社長から呼び出しを食らったので、僕は訪問後に楽しみにしていた駅そばを無視して社内に直帰した。

 

オフィスに入ると、 早速社長から、デスクの前に来いとのお達し。ブラック企業社員に心が休まる時間はない。

 

「なんかお前らさ、取引先に資料持っていけないとかで朝めちゃくちゃ騒いでたみたいだけど」

 

やっぱり。朝からプリンタが全く動かなかったことで、資料が印刷できなかった事件。

 

「何なの?それ。お前ら印刷くらい前日にやっとけよ」

 

「はい……」

 

「はい、じゃねえよ。ゴミだなお前ら」

 

社長はジャンプをおいてこちらに体を傾ける。臨戦態勢だ。

 

「そんなアポ行ったって金とれるわけねーだろ。ふざけんなよ。お前らのクソアポに払う給料なんてねえんだぞ」

 

僕らは口々につぶやく。すみません。すみません。すみません。

 

「前日にやれ。いいか、前日だ。前日にやれ。まじで、前日。当日にやるのはクズ。ゴミ。ゴミに払う給料なんてないわけ」

 

当たりが強い。

 

社長の言葉も一理あるとも思う。確かに、前日までに準備できていたらそれがいい。しかし、僕の資料なんて朝の4時に完成している。そこから4時間巻き戻して完成させるなんて、一体何を削ればいいのだろう。

 

錬金術がほしい。カエルでもコウモリでもガラスでも魔法の杖でもなんでもいいからごちゃまぜにして時間を生み出す錬金術。

 

そんなことを考えているうちに、ミーティングの時間になる。 僕らは散々罵詈雑言を吐かれ、ミーティングに15分遅刻して席についた。

 

そういえば、こういう詰め方ってパワハラって呼ぶらしい。想像したこともなかった。だって、悪いのはパフォーマンスを出せない僕らで、社長は僕らに成果を出せるようにアドバイスしてるだけだと思っていたから。

 

 

会社ぐるみのパワハラ4:ミーティング

社長からの激詰めから逃れるようにミーティング室に入る。

 

「しょうきち、散々だったな。気にすんな」

 

関西出身のさんまがフォローしてくれる。歯磨きしながら街をあるいたりして僕を驚かせたりするが、こういう優しさが彼の持ち味だ。

 

「お前、今日の訪問で、商材の話したんか?」

 

「ああ、したよ。ブログを使った集客コンサルティング。訪問先からは、ブログなんて女子高生のおもちゃだろって言われて聞いてもらえなかった」

 

「それはあかんな。先方は相当リテラシーないんやな」

 

「全くだよ。最近はYouTuberだってプロモーションとして使えるのにさ」

 

僕らのようなBtoBのIT企業が躓く要素の一つに取引先のリテラシー不足がある。特に、相手が年配だったりするとややこしい。ITの話を極めて具体的に、例え話を使いながら話しても聞く耳を持たないことだってある。

 

今日の訪問先も、地引網だとかいろんな例えを使ったにも関わらず、理解してもらえなかった。先入観という壁は厚い。その壁の厚さはたいてい、相手のリテラシーの理解度とこちらのサービスの信頼性の差分だけ厚くなる。

 

ドアがいきなり開いたかと思うと、詰められた営業社員と一緒に社長が入ってきた。一気にミーティングスペースがいっぱいになる。部屋の空気が一気に変わった。酸素濃度が急速に低下したかのように息苦しくなる。パワハラの影。

 

「おい、始めるぞ」

 

軍隊の整列みたいに一斉にPCを開く。ここで出遅れたら銃殺ものだ。

 

「で、今日は営業以外の人間にも訪問に行ってもらったわけだけど」

 

社長が社員全員を見渡す。

 

「どうだった?マゾ彦」

 

「え~、何も理解してもらえませんでした~」

 

「馬鹿かお前は。バカは顔だけにしやがれ。ほい、次」

 

次はやり手の営業社員、ウォーリー。イケメン高身長で慶應出身の高学歴だが、なぜかこの会社を創業当時から手伝っている。普通に就職していれば大手企業にも引く手数多だっただろうに、彼はそれでもこの会社で頑張っている。

 

「先方は既にWebコンサルを使っているようでした。話では、そのコンサルサービスの中にSEO強化のプランも入っていて、うちのサービスと重なる部分があると。そのSEOプランもなかなか大きな規模で、うちのリソースでは賄えそうにありませんでした」

 

「それで、リソースがないからどうしたんだよ」

 

「それで……終わりました」

 

「てめえ何年営業やってんだよ。リソースなんて外部パートナー使えばいくらでも生み出せるだろ。何ならてめえの大学行ってインターン2,3人かっさらってこい。無給で働かせればどうってことないだろカス」

 

「すみません……」

 

しれっとパワハラ的な発言が出るのはご愛嬌である。

 

「上場ってどういう意味かわかってんの?うちの会社が世間一般の投資家に、公平に、他の会社と同じように評価されるってことだ。つまり、腐ってる会社はカスみたいに扱われて評価が下がる。いい会社は投資を受けて頼まなくてもブリブリ豚みたいに太らせてもらえる。てめえはこの会社をカスみたいにしてえのか、あ?」

 

「成長させたいです……」

 

「あ?」

 

「成長させたいですっ!!」

 

「なら受注してこいよ。いっぺん死んでこい。ほい次」

 

ひとりひとり、ボロカスに切られていく僕たち。尋問が終わったときには、ミーティング室はエントロピー増大の法則が支配していた。すすり泣きと絶望が混ざり合って増殖し続ける、歪んだエントロピーの増大。僕はもちろん、開口一番叩き切られた。

 

「最近運用を開始したサービスだからまだ営業に慣れてないかもしれないけどな、舐めるなよ。お前らが営業している意味を考えろ。そこから徹底しろ」

 

「まあ、そのくらいにしようよ」

 

副社長の青井が入ってきた。外資系コンサル出身で体育会系出身。物腰は柔らかいが、彼にはロジックしか通らない。ミスがあると、表情を変えずに問い詰める上、感情的な言い訳は一切聞かない。「青い血が流れている」という噂さえある。切れると笑いながら死ぬまで殴ってきそうなイメージだ。

 

「新しい商品なんだからさ、いきなり押し付けてもしょうがないよ。そもそも、今回のミーティングの趣旨は、売り方をわかってもらうためのものなんでしょ」

 

「まあ、そうなんだけどさ」

 

社長も青井の頭の良さは認めているから、こういうときに引いてくれる。そういう意味で、今回の青井は救世主だ。さあ、傷ついた僕らの涙をぶどう酒にでも変えてくれ。

 

会社ぐるみのパワハラ5:休まらない時間

「みんな、社長が言いたいのはね、今回の商材を、ただブログマーケティングの商材として使っても意味が無いってことなんだよね。もっと上段から行こう」

 

青井がパワーポイントをプロジェクターに映し出した。

 

「僕らのやろうとしているのはCMSサービスという市場になる。CMSとは何か知っているね?」

 

「コンテンツ・マネジメント・システムです」

 

「そうだ、さすがしょうきち。まあ、サイト制作担当だもんな。この場合、コンテンツとは、多くの場合テキストで書かれたページを指す。マネジメントというのは管理のことだね。CMSというのは、テキストで書かれたページを沢山増やしたり、改良したり管理できるサービスのことを言うんだ」

 

「ブログを書きためたりするものですね」

 

「ブログとは、CMSの一つの使い方だね。CMSはあくまでもページを管理するシステムのことだから、ホームページの一部に組み込んだりしてもOK。ほら、企業ホームページの中で、最新情報みたいなページあるだろ。あそこは更新頻度がすごく高いから、あそこにCMSをぶっ込んだりしてることもある」

 

「使い方がいろいろあるんですね」

 

「そういうこと。ちなみにCMSの代表格は何かわかるかな」

 

「WordPlay」

 

「マゾ彦、ありがとう。でも正解はWordPressだね。WordPlayってどんなプレイなんだ?」

 

マゾ彦が顔を赤くする。やはり、こいつはアホだ。

 

「WordPressは無料で使えるサービスだ。自社でオリジナルCMSを組む会社もあるけれど、こいつを使って安くサービスを仕上げる会社もある。見てくれはあたかも自社サービスのように謳ったりもするね」

 

「なので、CMSサービスのキャッシュポイントは3点あるね。まずはCMS自体の料金。そして、記事執筆代行料金。そして、最後は僕らがやろうとしている、コンサルティング料金。コンサルティング料金はどのような価値の対価としてもらえるんだい?」

 

「顧客のマーケティング課題に則した運用方向性の設定の対価。CMSで記事を執筆し、それぞれの記事で集客しようとしても、どの記事で顧客を集め、どの記事で信頼させ、どの記事で購入させるといった戦略がなければ課題解決には向かない。したがって、その方向性を定めることで、CMSの有用性をはじめて発揮できる」

 

ウォーリーが辞書でも引くような口調で答える。

 

「正解だね、さすが。今のはメモしておくといいよ。さて、今の話がすべてだ。僕らは幸運にも恵まれた頭脳を持っている。おそらく、ここにいるメンバーの大学入学時の偏差値は外資系戦略コンサルティングにも引けをとらないだろう。僕らはその頭脳を持って、ただのブログを高値で売りつけているしょぼいマーケティング企業を駆逐するんだ。戦略もなしにブログなんてやって、なんで儲かるんですか?ってね」

 

青井がニヤニヤしながら言う。獲物を狙う蛇のような目だ。青井には、ポジショニングマップで競合を塗りつぶすのが一番のエクスタシーになり得るのかもしれない。

 

 

「そういうこと」

 

社長が口をはさむ。

 

「だからお前ら、今度はブログシステムを売ろうと思うな。ブログなんてただでもできるんだからな。それを月額50万とろうってんだから、それだけの価値を見せつけろ」

 

「そうだね。ただ、いきなり50万円払っていただくのも難しいと思うんだ。だから、御存知の通り、1ヶ月の無料調査期間をキャンペーンでやってる。調査と言っても、ほぼ営業なんだけどね。クロージングする前に、たくさん情報がほしいから、最初の1ヶ月で顧客からデータをもらって営業資料を作るんだ」

 

「なるほど~、そういうことだったんですね~」

 

マゾ彦が口を開けっ放しで賞賛する。

 

「そんなことも知らなかったのかよ、てめえは死ね!」

 

社長が投げつけたジャンプはマゾ彦の隣に座っていたウォーリーに当たり、ウォーリーは静かに頭を擦った。うつむいたまま動かない。さぞかし痛かったのだろう。

 

ミーティングは終了。時間は朝の3時だ。さて、これから訪問資料でも作ろうかな。

 

会社ぐるみのパワハラ6:朝5時の憂鬱

猛烈な眠気の中、僕は営業トークを考えていた。3時に終わったミーティングの後、デザイナーたちがつくったサイトのバグ取りをして、それが終わったのが5時。

 

営業資料を印刷して(もう詰められるのはごめんだ!)、レッドブルを飲んで一息いれる。レッドブル、翼を授ける。一時期猛烈に流れていたゆるいCMを回想しながら、僕はこの場を放棄してどこかへ飛んでいけたらと願った。

 

「WordPlayで変態プレイ……すなわちWordPlay……」

 

意味不明だ。足元にはマゾ彦が寝転がりながら、訳の分からない言葉をつぶやいている。

 

だからWordPlayじゃない、WordPressだ。起きた後にテストしてやったほうがいいかもしれない。

 

朝一番のアポは品川。僕の本来のクライアントである頭脳警察のアポだったが、これは難なく終了。

 

なぜなら、バキバキに働く真面目なインターンの子に頑張ってもらったからだ。彼には申し訳ないが、猫の手も借りたい今の状況、存在するリソースはギリギリまで使わなくてはならない。

 

「しょうきちさん、今度メシおごってくださいね……!」

 

1日1万字の記事作成。インターンがこれを10日間こなしてくれたおかげで、大量のWebページを更新し、グーグルの検索結果に上位表示できるはずだ。

 

可哀想なインターン生は、座ったままなのに、フルマラソンでもこなしたかのように息を切らしていた。ちなみにこれを2回繰り返せば、文量的に文庫本1冊が完成する。

 

「サンキュー、お前、作家になれるぜ」

 

無事にアポも終了したことだ。今度、凪の煮干しラーメンでもおごってやるか。あれはうまい。新宿に行く用事があるなら、是が非でも行くべきだと僕は思う。命の水だ、煮干しスープ。

 

会社ぐるみのパワハラ7:社外に逃れるように昼飯 

キヨスクで買った適当なガムを噛みながら、高田馬場を歩く。アポ前まで時間があるから、腹ごなしがしたい。この時間を伸ばせば、メシが食えるのは3時半になる。それだけは避けたいのだ。

 

高田馬場にアポ先があると幸運だ。安くてうまい昼飯に困らない。

 

新宿ではローストビーフの油そばだったり、どちらかというと話題先行のキャッチャーな飲食店が並ぶ傾向があるが、高田馬場は堅実。飛び道具よりも、長く愛される堅物の頑固おやじのような店が愛される。もちろん、安くてうまくて多いのは必須条件だ。ライス大盛り無料は当然、ライスおかわり無料でようやく偏差値50ってところか。

 

しかし、今回は違う。駅を出てから杉並方面に歩いてから、細い路地を抜けていくと、居酒屋のならびにぽつんと建つ黒い店が目に入る。牛骨ラーメン道玄。

 

バーカウンターの居抜きのような、高めのテーブルに椅子。やや暗めの店内にはジャズが流れる。オアシスだ。1番奥に腰掛けてから、牛骨ラーメンの塩をオーダーする。麺はスパイスを練り込んだ特別なやつ。

 

スープを一口。ごくり。ふんわりと牛からとったダシの香りがひろがる。いい。無化学調味料のやさしさと、この牛のエキスから出た油がいい。口当たりが良くて飽きが来ないから、ついつい飲み干したくなる。派手なラーメンばかり食べ続けると、ビリビリするような刺激ばかりが残るから、こういう上品なラーメンをはさみたくなる。いい仕事だ。

 

仕事。

 

僕の仕事も誰かの役に立っているのだろうか。このラーメンが良いひとときを提供してくれるように、クライアントに何か貢献できているのだろうか。

 

社内は炎上案件にあふれ、僕らはその対応のために、なんとか頭を下げるばかりだ。顧客に睨まれず、握手をして成果をわかちあいたい。そんな日が来るのだろうか。

 

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