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転職先はブラック企業第73話「慢心相違」

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次長との面談は東京と九州をあわせて3回に渡って実施された。

 

その間、次長は終始僕を褒め続けた。

 

うちの会社は結構トップダウンだから、最初から人事というのは難しいかも知れない。でも、必ずしょうきちさんと人事をやりたいと思ってる。だから、心配しなくても良い。必ず引っこ抜くから。

 

こうしたありがたい言葉を聞く度に、僕はうっとりした。

 

事あるごとに次長は僕のことを「一緒に会社を改革する同士」と言ってくれた。実は、次長は僕よりも20歳も年上である。経験からして、どう考えても同士というのは釣り合わない。

 

しかし、それでもなぜか、次長はひたすらに僕を同士として扱ってくれた。

 

夢を壊すような話かもしれないけど、正直うちの会社はそこまで華やかじゃないんだ。保守的な人も多くて、宮崎の気質に似てのんびりとしているところも正直ある。だから、私は入社して以来ずっと我慢してきた。自分を隠してね。

 

自分を隠して、ですか…… 

 

次長の言葉の裏には、消化不良のため息を感じることができた。おそらく、納得がいかないことも多かったのだろう。

 

でも、私もずっと我慢を続けるつもりはない。しょうきちさんのような仲間を増やしていって、健全な新陳代謝を促したいんだ。うちの会社が更に大きくなっていくためには、それしかない。

 

会社は一枚岩ではない。

 

今までのベンチャーでの業務はわかりやすかった。頑張らない奴はカス、結果を出せないやつはゴミ。利益に対してフルコミットすることこそが唯一の指針だった。そこには揺るぎない、ベンチャーだからこそあるシンプルな目的があった。そういう点で、あのブラック企業はわかりやすかったのだ。

 

しかし、次長の言葉は、会社がそんなに簡単ではないことを教えてくれる。組織は人が増えれば増えるほど、年月を重ねれば重ねるほど、ところどころがサビて融通が効かなくなってくるらしい。

 

頑張りたくない人間も、仕事が好きじゃない人間も色々入ってきてしまって、「せっかく仕事なんだから、頑張るべき」というシンプルな理論で動かないのだ。なぜなら、動かなくても給料は入ってくるのだから。

 

だから頼むよ、しょうきちさん。あなたみたいな、若くて色々新しいことをやりたいっていう人を求めているんだ。

 

次長はいつもそう言った。そして、僕も、力強く「はい」と答えた。

 

適性検査、そして面接へ

次長の温度感も高まり、もはや「入社前提」で話が進むようになったころ、適性検査の話があった。僕は品川まで呼び出され、会議室で適性検査を受けることになった。

 

渡されたのはクレペリン検査。ひたすら計算問題を解いていくという、小学校の時にやらされるようなアレ。それから、昭和の印刷会社が刷ったまま何十年も改定されてこなかったような古臭いマークシート。

 

ああ、こういうところが古いんだなあ、と思った。

 

次長は「こんなもの、本当はどうでもいいんだけど、上がうるさくてね」という。僕も笑って答え、ペンを持った。

 

ところで、僕は不毛な行為には激しい憎悪を感じる質で、こうした無意味な適性検査も例外ではない。だから、時間の限り計算問題を解き続けるような心理的負荷の大きい(そして、入社の関門としての機能を果たさない)検査など、ヘドが出るようなものだと感じていた。

 

僕の姿勢は5分刻みで大きく傾き、ため息が漏れた。

 

全ての検査が終わり、次長と歓談する。隣では、女性の管理職がマークシートのスコア計算のようなものをやっていた。

 

僕はこの不毛な検査から開放され、次はいつ本社に行きましょうか、等と次長と話していた。

 

そのとき管理職の女性が次長にスコアを渡してきた。

 

しょうきちさん。

 

次長の表情が少し曇る。

 

このスコアじゃ、うちの採用基準にあっていない。どうしようか……

 

なんということだ。あの計算問題で落とされることになるのか。僕の目の前は真っ黒になった。

 

次長は僕にスコア表を見せてきた。スコアにはところどころ赤丸がついている。

 

見ると、8+6が13になっていたり、9+7が15になっていたりする。延々と解き続けることで集中力が欠如し、イージーミスを連発していたのだ。こんなことで落ちることなんてない、そう信じ切っていたからこそ生まれた失態だった。

 

自業自得だ。

 

でも次長。こんなことで不合格になんてならないですよね。たかが適性検査ですよね……

 

そう言おうと顔をあげた時の次長の顔は、想像以上に険しかった。