もちもち動物園

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転職先はブラック企業第19話「いつの間にか営業担当」

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太陽光がビルで乱反射し、アブラゼミが狂ったように鳴く新宿の街中を、僕は無我夢中で駆け抜けていた。アポの時間に間に合う最後の電車まで、あと3分。歩いて5分かかる道だから、走ればきっと大丈夫だ。大丈夫、大丈夫。

 

「はっ、はっ、はっ」

 

あまりにも本気で走っていると、涙が出てくるものだ。アドレナリンが吹き出して、脳がハイになる。地下鉄の入り口をミサイルのように見定めて、横に並んで歩くOLを突き飛ばす寸前で回避。バトンパスのようにスイカをタッチして、あとは20段ばかりの階段を駆け下りて電車に飛び込むだけだ。

 

間に合うか間に合わないかのギリギリの隙間に自分をねじ込み、ゲームセット。終了直前のスリリングなゴールで僕はこのチキンレースに勝つつもりだった。しかし。

 

「発射しまーす。駆け込み乗車はおやめくださーい」

 

階段を駆け下りる寸前に、無慈悲な車掌の一声。

 

待ってくれ。あと3秒でいい。3秒待ったところでお前の給料は何も変わらないだろ。今のトレンドは顧客第一主義だぜ。ワタミもグロービスもマッキンゼーも、どこだってそう言ってるじゃないか。

 

しかし、僕の魂の叫びも届かず、わずか数秒の差で地下鉄は発車した。僕の荒い呼吸の背後に汽笛が響く。うるせえ。プァーンじゃねえよ、くそが。

 

「はあ、はあ……くそ、くそっ、くそ……!」

 

腕時計。なんど見ても、これがアポの前の最終電車。タクシーを使ったとしても、余計間に合わない。最短ルートを取り逃し、アポの遅刻が決定した、哀れなブラック企業社員。

 

「マジかよ。ほんと……最悪」

 

僕は2分で息を整えてから、訪問先に10分遅れる旨の電話を入れた。

 

営業

「遅れてしまい、大変申し訳ございません!」

 

通された会議室で、僕の声だけが響いた。訪問先の社員は4人いるが、全員無言。座ったまま、むすっとした表情で僕をみている。

 

「も、申し訳ございませんでした!」

 

再度謝る僕。哀れだ。キンキンに冷えたエアコンの冷気が僕に当たっている。僕は軽く身震いをした。

 

「まあ、とりあえず、おかけください」

 

 小さくなる僕と、テーブルを挟んで4人。険しい表情で見つめられる。

 

「初めての顔合わせで遅刻とはやってくれるね」

 

「しかも、資料を紙でプリントアウトしてこなかったそうじゃないか。直前にもらったデータをこちらで印刷したから、何も持たずにそちらの話を聞くということはなかったがね」

 

申し訳ございません、と小さくつぶやいた。耐えろ、自分。

 

早朝のことだ。すべては小さな異変から始まった。なぜか、プリンタが作動しなかったのだ。2つの営業チームに、僕達のようなフォローアップチームと、アポが入っているチームは5つ。その全てが印刷を待つが、プリンタからは一切何も出てこない。

 

「なんで動かないのよ!誰かクソ重いデータでも送信したんじゃないの?」

 

悶々とする時間。アポの時間まで2時間あったが、それが1時間半となり、ついに1時間を切る。30分前に出ればぎりぎり間に合うというタイムリミットが、どんどん迫ってくる。

 

「無理だ!データで送る!」

 

営業チームがメールでデータを送付し始めたのを皮切りに、すべてのチームがデータ送信をし始めた。続いて電話をかける。申し訳ございません、恐れ入りますが、訪問中は資料をパソコンでご覧いただくか、御社の方でプリントアウトをしていただくことは可能でしょうか。ええ、申し訳ございません……。

 

僕も時間ギリギリまで粘ったが、やはり資料は出ず。取り急ぎのデータ送信で場をしのごうとした。その結果がこの有様だ。そして、おそらく今の僕と全く同じ状況を、何人もの社員が経験している。

 

今回のアポは、僕らフォローアップチームに課せられた「営業戦略アポ」だ。3年後に見越した上場ため、売上をきれいな尻上がり的に伸ばさねばならない。営業チームだけでは成果が上がらないと判断した経営陣は、フォローアップチームの業務をさらに効率化することで時間を捻出し、その余った時間で営業に向かわせる方針をかためた。

 

「遅刻の件、ならびに資料については申し訳ございません、しかし、ご提案についてはきっと、価値のある情報提供になると自負しております」

 

提案内容は、CMSツールの販売と運用のコンサルティングだった。言うなれば、ブログを作ってお客さんを囲い込みましょう。どんなブログを作ればいいか、作ったあとでどうすればお客さんが増えるか、全部任せてください。費用は月額50万です。こんな感じ。コンサルティングって便利な言葉だと思う。とりあえずそれをつけておけば、商品っぽくなるのだから。

 

「他社とはどう違うのかね?」

 

「当社は長年続けてきたWebマーケティングのノウハウがございます。それは他社のようにSEOに偏重するわけでもなく、リスティングだけやってきたというわけでもない。もちろん、サイト運用だけのプロフェッショナルで完結してもいないのです。包括的にマーケティングに携わることができるのがうちの強みです」

 

例えるなら、本をたくさん書いて売るとなったとき、小説だけ書ける作家だけじゃダメ。エッセイだけ書けてもダメ。いろんな記事が書ける「執筆力」と、それらを組み合わせる「編集力」がないと、いい本作れませんよね、という話。(で、それが全部うちにあるという、おこがましいトーク)

 

「あー、よくわからん。安井くん、わかるかね」

 

重役らしい小太りの男が、眼鏡の若手を呼んだ。

 

「ちなみに成果はどのくらい出るのでしょう?」

 

眼鏡の安井が言う。

 

「単刀直入に申し上げて、それは現段階ではわかりません。ブログは漁船で言う、魚を海底でとらえる地引網のようなものです。お金と時間を投資すればするだけ、網は大きくなる。つまり、Webでお客さんを多く囲い込めるのです」

 

重役は往々にして、Webに詳しくない。だから、こうしたセールストークはなるべくゆっくりやるのがいいはずだ。僕は軽く息を吸い込んで、話を続ける。

 

「ただし、そもそも魚の数がいなければ、網をしかけても無駄です。そこはきちんと調査しなければならない。だから……」

 

クロージングだ。

 

「まずは最初の1ヶ月、お試しキャンペーン。無料で調査をさせていただきます。どのくらいの規模のブログを作れば、どれくらい儲かるか。そして、そもそもWebを使っているターゲットはどのくらいいるか。きっと、御社のWebマーケティングに広く役に立つデータも提供できると思います」

 

顔をあげた。訪問先の4人は皆、資料を見ながら無表情で黙っている。

 

「はっきりいうが、よくわからん。第一、ブログってあれだろ、女子高生が日記とかつけるものだろ。あんなキャピキャピしたものにうちの情報を載せるのか」

 

「いえ、違います。それについては資料の5ページに、イメージを……」

 

「いや、そもそもブログってなんだ。企業ブログとかなんとか最近やっているところもあるらしいが、自社の自慢をばーって書いて何が面白い。あんなもん、ママゴトに過ぎん」

 

「単純に現在あるホームページをリスティング広告でグーグルの検索結果に出るようにすれば手っ取り早いんじゃないですか?」

 

重役に加え、眼鏡の安井も乗ってきた。

 

「ブログというと、言葉ではチープなイメージもあるのも頷けますし、安井様のおっしゃるように、リスティングを使うのも一手かもしれません。それらはすべて、こちらでお調べしますので、見た目も現状のホームページと遜色ない、費用対効果の高い施策も必ずお出しします」

 

4人の表情は、はっきり言って腐っていた。早く終わってほしそうに、PCを叩いている。きっと、他の業務のレポートでも書いているのだろう。この相手には、何を言っても響かないように思えた。

 

「何かあったら連絡しますよ」

 

重役が短く切り出した。意訳すると、「どうぞお帰りください」だ。むべなるかな。

 

「ぜひともよろしくお願いします。本日は貴重なお時間をいただきありがとうございました。今後共ご贔屓に」

 

営業スマイル。肺の中まで冷え切った体をぎこちなく持ち上げ、一礼してから立ち去る。見送りも当然なし。まあ、遅刻もしたことだし。むべなるかな。

 

上司に電話をかける。訪問の結果報告を手短に済ませ、貴社予定時刻を告げる。

 

「ちなみに、あとで社長から連絡があるらしいよ」

 

 

嗚呼、悪いことって重なるものだ。

 

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